増える叔母や叔父の介護

少子高齢化に伴う「おひとりさま高齢者」は、現代の日本において最も深刻な課題の一つです。団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる「2025年問題」を迎え、未婚率の上昇や親族関係の希薄化が進んだことで、従来の「家族介護」の前提が大きく変わってきています。

かつて、介護は配偶者や子供といった近親や同居の親族が担うものでした。しかし、生涯未婚率が上がり、配偶者も子供もいない高齢者が激増しています。彼らの生活能力が低下した時、認知症によって判断能力を喪失した時、そのしわ寄せはどこへ向かうのでしょうか。それは突如として「甥・姪」などの親族に向かっているのが実情のようです。

ある日突然、警察や病院、自治体などから「あなたの叔母様が保護されました」という連絡が入ります。長年疎遠で、顔も覚えていないような叔母の介護や身元引受、そして汚物で溢れた自宅(ゴミ屋敷)の処分を迫られるたりします。これは決して特異な事例ではなく、日常的に発生している「法的・経済的リスク」と言えます。そこで、叔父や叔母の介護で出てくる悩ましい疑問点について考えていきましょう。

そもそも甥・姪に「介護義務」はあるのか?

「良く知らない叔父や叔母の介護なんてしたくない」

そう思っていても、断るのは気まずさを感じてしまうものです。

叔父・叔母の介護を拒否するにあたり、心をとがめるのは「罪悪感」と「法的責任への意識」です。しかし、法律をしっかり理解すれば、甥・姪が負うべき責任はある程度限定的であることがわかります。

民法での「扶養義務」の原則

実は、甥・姪には叔母(叔父)を介護する法的義務は原則として存在しません。これは、民法第877条で明確に決まっています。

原則は直系血族及び兄弟姉妹の義務

民法第877条では、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められています。 「直系血族」とは、父母・祖父母・子・孫などを指します。「兄弟姉妹」は、叔母や叔母にとっての兄弟姉妹、つまり「あなたの親」を指します。甥・姪は叔母から見て「3親等の傍系血族」にあたるため、扶養義務者には含まれません。つまり、叔母(叔父)に子供がおらず、あなたの親(叔母・叔父の兄弟)も既に他界している場合、法律としてあなたに扶養義務が発生することはありません。

関係性が強い場合は例外になることも

しかし、この法律には例外が存在します。「家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、3親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる」とも規定されています。 ここで重要となるのが「特別の事情」とは何かです。単に「他に身寄りがいないから」という理由だけで、甥・姪に義務が課されることはほとんどありません。家庭裁判所が3親等の親族に扶養を命じるのは、以下のような極めて限定的なケースに限られます。

  • 過去の濃密な扶養関係:幼少期に叔母から実の子同然に育てられた、あるいは多額の学費援助を受けていた場合。
  • 生計の一体性:長期間同居し、家計を共にしていた事実がある場合。
  • 実質的な相続関係:叔母から既に多額の財産贈与を受けている、あるいは将来的に全財産を相続することが確実視されており、扶養を行うことが公平の観点から妥当と認められる場合。

これらに該当しない、いわゆる「疎遠な親戚」であれば、家庭裁判所から扶養命令が出る可能性は限りなく小さいと言えます。したがって、行政や病院から「親族なのだから」と迫られても、法的には反論が可能であるといえるでしょう。

施設入居と身元保証の「壁」

親族による介護の負担を減らすために、本人に介護施設に入ってもらうことはかなり有効です。しかし、そこで立ちはだかるのが、介護施設への入居契約における「身元保証人」の壁です。

身元保証人に求められる3つの役割

日本の有料老人ホームや介護施設の9割以上は、入居契約時に「身元保証人(連帯保証人)」を求めます 。求められる役割は主に以下の3点です。

  1. 債務保証(連帯保証):月々の利用料や、施設内で器物を破損した場合の賠償金など、金銭的な債務を保証する役割。万一本人が支払えない場合、保証人が金銭的負担をする必要があります。
  2. 緊急時の対応:病状急変時の連絡先、医療行為への同意(厳密には同意権はないが、慣例として求められる)、入退院の手続きなど。
  3. 身柄の引受と死後事務:退去が必要になった際の引き取りや、死亡時の遺体引き取り、荷物の撤去(原状回復)、葬儀の手配など。

拒否は可能?行政の建前と現場の本音

法的には、甥・姪が入居保証人になる義務は一切ありません。また、厚生労働省は「身元保証人がいないことを理由に入居を拒否してはならない」としています。

しかし、民間の有料老人ホームでは、「保証人がいない方の入居はお断りしております」と門前払いされるケースが後を絶ちません。施設側としても、利用料の滞納リスクや、死後の遺体・荷物の放置リスクを回避したいためです。

リスク回避の切り札は「高齢者身元保証サービス」

甥・姪が連帯保証のリスク(特に金銭リスクと死後対応の手間)を負いたくない場合、かつ施設入居を実現させたい場合、「民間の身元保証会社(高齢者身元保証サービス)」の利用が最も現実的な解決策です。

サービスの仕組み

入会金や月額会費、預託金を支払うことで、法人が家族の代わりに身元保証人となります。

  • 身元保証:施設の入居保証人、病院の入院保証人になる。
  • 生活支援:買い物代行や通院付き添い。
  • 死後事務委任:葬儀、納骨、家財処分、行政手続きの代行。

費用感

サービス内容によりますが、身元保証のみであれば初期費用で30〜60万円程度が一般的です。、加えて預託金(死後費用など)として50〜100万円程度が必要になるケースがあります。決して安くはありませんが、叔父や叔母のためのサービスを本人たちの資産から賄うことで、甥・姪としての負担を減らしつつ、代替的な方法を提供してあげることができます。。

認知症と不動産資産の「凍結」

叔母の介護費用を捻出する上で、一番の資金となるのが「叔父・叔母名義の自宅(不動産)」です。しかし、ここには「認知症による資産凍結」という大きなリスクが潜んでいます。

意思能力の喪失と法的行為の無効

不動産の売却には、売主(叔母・叔父)に「意思能力(自分の行為の結果を弁識する能力)」がないといけません。 重度の認知症になり、「家を売る」ことの意味や、売却金額の妥当性を理解できない状態であれば、売却という契約行為を間違いなく成立させることはできません。甥・姪が実印や権利証(登記識別情報)を預かっていても、叔母本人の意思確認ができなければ、無効になってしまいます。これが、いわゆる「資産凍結」の状態です。

判断能力がある場合(正常または軽度の認知症)

不動産を活用できるか否かは、叔母の現在の判断能力の有無によって大きく変わります。

まだ叔母に判断能力があり、将来の不安を感じている段階であれば、選択肢がいくつかあります。

  1. 任意後見契約:将来判断能力が低下した際に備え、あらかじめ後見人(甥・姪や信頼できる専門家)を選定し、代理権の内容を決めておく契約です。公証役場で公正証書を作成します。
  2. 家族信託:不動産の名義を形式的に「受託者(甥・姪など)」に移転し、管理処分権限を与える契約です。成年後見制度に比べて柔軟性が高く、裁判所の関与なしに不動産の売却や賃貸運用が可能になります。
  3. 生前売却:施設入居を見据え、判断能力があるうちに自宅を売却して現金化してしまう方法です。

判断能力が既にない場合(中等度〜重度の認知症

一方で既に叔母が認知症等のために会話が成立しない、あるいは物忘れが激しく契約内容を理解できない場合、任意後見契約や家族信託契約を締結することはできません。この場合、唯一残された法的手段が「法定後見制度(成年後見制度)」です。

法定後見(成年後見制度)を利用した不動産売却は、家庭裁判所の許可手続きが必要なため、通常より時間がかかり、一般的にはスムーズに進んだとしても全体で6ヶ月前後を要します。

後見人の選任に3〜4ヶ月、売却許可申立て〜許可取得に1〜2ヶ月、その後売却活動となるため、余裕を持った計画が必要です。

具体的には以下の手順と期間で進みます。

《法定後見による不動産売却のスケジュールと期間の目安》

1.成年後見人の選任(約3〜4ヶ月)
家庭裁判所への申し立て、審理・登記を経て後見人が確定します。

2.売却活動と買主探し(3〜6ヶ月前後)
不動産業者による査定を行います。
半年経過しても売却先が決まらない場合には大幅な価格変更や売却の断念をするケースもあります。

3.家庭裁判所への許可申立て(約1〜2ヶ月)
本人の生活費確保など「必要性」が認められないと売却が認められません。
居住用不動産の場合、売買契約案を作成し、裁判所に「処分許可」の申請手続きを行います。

4.売買契約締結・引き渡し(2週間〜1か月)
許可が下りた後に売買契約の締結および決済を行います。


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気持ちも大事だけど、「自分の人生」が最優先

叔父や叔母の介護問題は、一度動き出すと、金銭的にも精神的にも泥沼にはまるリスクがあります。「かわいそうだから」という一時の感情で財布を開いたり、安易に身元引受人になったりすれば、その責任は死後の片付けまで何年も続くことになります。

冷徹に見えるかもしれませんが、ある程度割り切った関係性をしっかりと作っておくことが、結果として時間や心労、金銭などを含めた総合コストを最小化し、あなたと家族を守ることにつながります。

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