住宅・事務所以外の建物、たとえばホテル、商業施設、介護施設等についてオーナーとテナントの間で正確な賃貸借契約書を作ろうとすると、資産に関する必要な「区分」は4つ必要です。

「資産区分」「管理区分」「修繕区分」「更新区分」です。

この4つが完璧に備わっている賃貸借契約書はほとんど見かけることがありません。賃貸仲介を行った会社や内装工事を行う会社の能力次第となります。また、新築の場合に設計会社が「内装監理室」をしっかり設けていたり内装監理会社を別途発注していれば資産については正確に出来上がりますが、修繕や更新区分についてまでできているケースは多くはありません。

管理区分は多くの場合には契約書の文言のなかでカバーされます。たとえば、建物の主要構造部(屋根、壁、天井、床、階段等の躯体)や受電設備、受水槽、共聴アンテナ、主な配管などの管理や行政への報告業務はオーナーが行うが、日々の管理業務や1件数万円~数十万円までの修理業務、清掃や警備業務はテナントが行う、といった具合です。この場合でも文言での表現は十分とはいえないため、設備ごとに細かく作表しておくことがベストといえます。

修繕区分は、将来において必要とされる躯体や内装や設備に関しての、修理・張替・部品交換・設備そのものの交換について、オーナーとテナントのどちらが負担するかを定めたものです。これらも大まかに文言のなかで定めてある場合が多いですが、やはり作表しておくことをお勧めします。オーナーから建物を借りて出店する大手チェーンストアなどではこのあたりを定型的にしっかり定めていることで、トラブルが未然に防げることが多いですが、大手チェーンは百戦錬磨なわけですので、テナントの自分たちにとって都合の良い文言で作成されていることも多く、提示されたものを鵜呑みにすることは避けたいところです。

更新区分まで記載されている賃貸借契約書はほとんどありません。

修理ではなく設備の交換をどちらが行うかをしっかり決めてあるものです。

オーナーかテナントのうち、新築時に資産を持ち込んだ側が将来その資産の入れ替えを行うことが多いのですが、当初にテナントを呼び込むために空調など初回の設備はオーナーが負担しつつ1度故障して入れ替えが必要になった場合以降はテナントが資産の入れ替えを負担する場合などもあります。

空調設備というのはオフィス、ホテル、フィットネスクラブ、介護施設、美容エステ等のサービス業態などでは当然のようにオーナーが負担することが多いのですが、飲食店、物販店、マンション、アパートなどではテナント(住人)が持ち込む場合も多く、最初の取り決めが大変重要となっています。

古くから「なぁなぁ」の関係で大家と店子が賃貸借契約関係を続けてきた場合に、いまさらながら設備の更新をどちらが負担するのかが問題になることがあります。先日も介護施設の「資産区分」をクリアにしたいというお客様がいらっしゃいました。これまでの信頼関係を壊すことなく今後において大家と店子が揉めないために「区分を明文化」する、という作業もコンサルティングの大切な業務の一つです。