とある介護施設の施設長からの依頼です。

入居者の女性の貯金が底をつき、
施設の利用料を払ってもらえないため、
ご所有の自宅を売却して
そこから払うようにしてもらえないか

という相談がありました。

ご本人からの資料などの提供は期待ができないため、
まずはご所有だという自宅の住所をお聞きして
現地を確認しました。
また、土地や建物の謄本など、
第三者でも入手できる資料を携えて、
入居者様とお会いをしました。

ご本人に初めてお会いしてよくよく話を聞いてみると、
そんなものは持っていない
というびっくりするような回答でした。

謄本を調べると、間違いなくお父様らしきかたから
相続をしていた経過があったのですが、
「私はこんな建物は持っていない」という発言でした。

認知症がすでに進んでしまっていて、
相続したという理解ができていないようでした。

さて、どうしたらよいのでしょう。

残念ながら、所有している意思のないものを
「売却します」と言えるはずがありません。

不動産売買契約においては、
詐欺行為などを防止するためにも
所有者本人による売却意思の確認が不可欠です。
本人が間違いなくそう思って
手放そうとしている事実確認が必要です。

登記をする法務局においても厳重に
この点をチェックしますし、
登記手続きをする司法書士の先生たちも
この点は極めてデリケートに確認をします。

家族がいる場合、
まれに現金目当てで本人の意思を無視して
売却による現金化を促すことがあります。

本人の意思の尊重の点から、
これを未然に防止する仕組みがこれになります。

この方にはかなり疎遠な甥がいるとのことでしたが、
残念ながら連絡が取れず、
支援を得ることはできません。

仕方なく施設長が後見人の申し立てを
行うことになりました。

家庭裁判所にて後見人が選出され、
その後見人が
「本人の生活維持のために資産を売却するしかない」
という判断が成立すれば、
本人のために売主としての処分行為を
行うことができます。

当社としては、
ここで相談業務の対応はいったん終了しました。

いったい何がいけなかったのでしょうか。

このかたには過去のどこかの時点で、
貯金や年金、資産残高を

チェックする必要がありました。

そのチェックがなされないまま、
どなたかの判断で、
本人の身の丈を超える利用料のホームに
入居してしまった
ことになります。

ゆくゆく廉価なホームに
引っ越しをされることになりそうです。


おひとりさまというのはつらいものです。
おひとりであってもリスクというものを理解し、
それに備えるということがとても大事な一例でした。